物流コストを下げる前に、経営が可視化すべき5つの数字

物流費を下げる判断は、総額だけを見て行うべきではありません。費目、拠点、商品、サービス水準、生産性を同じ粒度で可視化し、どこに構造的な非効率があるかを確かめてから、サプライチェーン企業として改善の順番を決めることが重要です。

結論:一律削減ではなく、「コストが生まれる条件」を管理する

運賃・倉庫費・荷役費を一律に削ると、短期的に予算は軽く見えることがあります。しかし、欠品や遅配、誤出荷、要員の過負荷、協力会社の供給余力低下を招けば、全体最適とはいえません。納品頻度、出荷ロット、時間指定、商品特性、拠点の役割は一様ではなく、同じ物流費率の悪化でも打ち手は異なります。

国土交通省のKPI導入手引きは、コスト・生産性、品質・サービスレベル、物流条件・配送条件を代表的な評価視点として示し、目的に合う指標を必要最小限で選ぶべきだとしています。[1] またKPIは、自社の生産性や課題を明らかにするだけでなく、荷主と物流事業者がパートナーとして連携する土台にもなるとされています。[2] 経営が見るべきなのは「いくら減らすか」だけではなく、どの条件を変えれば、サービスを損なわずに再現性ある改善につながるかです。

最初にそろえるべき5つの数字

以下の表は、経営会議でまず同じ定義にそろえたい数字です。金額だけでなく、出荷数量、重量、容積、受注件数、人時、走行距離などの分母を併記します。総額の増減を、物量変動と単価・作業条件の変化に分けて読むためです。

可視化する数字最低限の切り口・代表的な算出例数字が示す論点優先して検討する打ち手
1. 費目別物流コスト輸送、保管、荷役、包装、管理、返品等を、総額とケース・kg・売上高当たりで表示どの費目が増え、物量と比べて単価がどう動いたか契約・請求の照合、作業設計、輸送モード、包装・返品工程の見直し
2. 拠点別収支・単位コスト拠点別の日次・月次収支、出荷ケース当たりコスト、保管効率赤字が固定費、稼働率、業務構成のどれに起因するか拠点機能、波動平準化、レイアウト、保管・在庫配置の見直し
3. 商品別・顧客/納品先別コストSKU、温度帯、荷姿、顧客・納品先別の出荷ロット、配送頻度、数量当たりコスト小ロット、多頻度、特別作業が採算を押し下げていないか最低ロット、締め時刻、納品頻度、荷姿、料金・サービス設計の協議
4. サービス水準誤出荷率、遅延・時間指定違反率、汚破損率、欠品・緊急出荷件数コスト削減が顧客価値や品質を毀損していないか品質要因の切り分け、例外運用、標準作業、約束納期の再設計
5. 生産性・輸送効率庫内人時生産性=処理ケース数÷投入人時、積載率、実車率人員、車両、設備が物量・時間帯・ルートに対して適正か工程標準化、要員配置、配車・ルート、共同化、車格の見直し

人時生産性、積載率、実車率、数量当たり物流コスト、誤出荷率、遅延率、配送頻度、待機時間などは、国土交通省の手引きにも代表的なKPIとして整理されています。[1] 表の全項目を一度に精緻化する必要はありません。自社の課題に直結する切り口を選び、データ定義、対象期間、配賦ルールを固定します。商品別コストでは、保管費や共通管理費の配賦基準も明記します。

数字を改善優先順位に変える4つの手順

第1に、基準線を作ります。 直近12か月程度を月別に並べ、物量、費目別コスト、サービス水準、生産性を同じ期間で確認します。繁閑差、販促、季節性、拠点移管などのイベントも重ねます。費用だけの前年同月比較では、物量や商品構成の変化を改善・悪化と取り違えるおそれがあります。

第2に、異常を「交差」で見ます。 拠点別コストが悪化しても、人時生産性と保管効率が維持されているなら、固定費や拠点機能、物量配分の検討が先かもしれません。商品別コストが高く、出荷ロットが小さく、配送頻度が高い場合は、運賃単価より受注・納品条件を見直す余地があります。積載率が低く過度な時間指定が多いなら、荷主、物流事業者、納品先でサービス仕様を協議する論点です。

第3に、品質の下限を先に決めます。 「サービス水準を落とさない」では曖昧です。誤出荷率、遅延率、汚破損率などについて、顧客との約束と業務上許容できる水準を明文化します。改善案は、費用効果だけでなく、この下限を満たすかで評価します。コスト低下とサービス悪化が同時に起きた場合は、成功として閉じず、原因と将来コストを確認します。

第4に、効果の大きさと実行可能性で並べます。 各案を「対象費目・対象拠点/商品」「変える条件」「期待するKPIの方向」「サービス下限」「責任者」「検証期限」の六項目で一枚にします。削減見込みには、物量、単価、作業時間の根拠を添え、検証可能な仮説として経営が承認します。

サプライチェーン横断で運用し、制度対応にもつなげる

可視化は物流部門だけの帳票にしません。月次の経営レビューには、営業、調達、生産、SCM、物流、財務を参加させます。物流事業者は荷主との定例で、ルート・荷主・納品先ごとの積載率、待機時間、ロット、品質を共有します。荷主側は出荷指示の遅れや販促波動も開示し、改善可能な条件を共同で選びます。数値は責任追及ではなく、要因の発見と意思決定に使うという原則を共有しましょう。

2026年9月7日時点で、物流効率化法は2025年4月から全ての荷主事業者に物流効率化に向けた取組の努力義務を課し、2026年4月からは一定規模以上の事業者に新たな措置を義務付けています。[3] 特定荷主、特定連鎖化事業者、特定貨物自動車運送事業者等、特定倉庫業者には、中長期計画、定期報告等が求められます。[4] 制度対応のためにも、数字を後追いで集めるのではなく、経営判断に使うKPIとデータ基盤を平時から整えておくことが有効です。対象該当や届出・報告の詳細は、必ず最新の公式資料で確認してください。

物流コストの改善は、経費削減の号令から始めるより、5つの数字で課題の場所と条件を特定する方が、荷主・物流事業者を含むサプライチェーン企業の合意を得やすくなります。自社でどこから可視化すべきか、KPI定義や会議運用をどう設計すべきかにお悩みの場合は、日本SCM協会への無料相談をご活用ください。現状のデータと事業特性に合わせ、改善テーマの整理をご支援します。

参考資料

  1. 物流事業者におけるKPI導入の手引き(案)
  2. 物流事業者におけるKPI導入のあり方に関する検討会について
  3. 物流効率化法について
  4. 特定事業者の指定